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進化系フライ最前線 — チュロス専門店・アジフライからSNS映えまで

進化系フライ最前線 — チュロス専門店・アジフライからSNS映えまで

揚げ物が、いま静かに、しかし確実に変わっている。ソウルフードとして長く親しまれてきたフライや唐揚げの世界に、新しい波が押し寄せている。チュロス専門店が都市の路地に増え、アジフライが高級食材として脚光を浴び、SNSでは黄金色の揚げたてショットが日々シェアされる。揚げるという、ごくシンプルな調理法が、なぜこれほど多様な進化を遂げているのだろうか。

チュロス専門店が街に根を張る

少し前まで、チュロスといえばテーマパークやフードコートで食べるおやつ、という印象が強かった。ところが近年、チュロス一本と向き合う専門店が全国各地に登場し、その存在感は急速に高まっている。素材にこだわり、国産小麦や米粉をブレンドした生地を使う店、沖縄産の黒糖を溶かし込んだシロップを添える店など、個性の競演が始まっている。

揚げ方の技術も進化した。生地を絞り出すノズルの形状、油の温度、揚げる時間——この三つを緻密にコントロールすることで、外はカリッと、中はもちもちという理想の食感が生まれる。シナモンシュガーの定番に加え、抹茶、黒蜜きなこ、チーズ、さらにイタリアンハーブ風味のものまで登場し、チュロスはもはや「スペインの揚げ菓子」という枠をはるかに超えた存在になっている。

長い列をつくるチュロス専門店が現れるたびに、SNSでは行列の様子や揚げたての映像が拡散される。揚げたてを食べる体験そのものが商品になっている、とも言えるだろう。

アジフライ「格上げ」という現象

定食屋の定番として長く愛されてきたアジフライが、近ごろ高級食材として注目される場面が増えている。身の厚い真アジを丁寧に開き、薄めのパン粉をまとわせて高温で短時間揚げる——そのシンプルな仕事の丁寧さが、アジフライを「こだわりの一皿」へと引き上げた。

長崎や三浦、東京湾産など産地を明記したアジフライをメニューに載せるビストロも増えてきた。旬は初夏から秋口にかけて。脂がほどよくのったこの時期の真アジは、揚げることで表面はカリッと、中はほぐれるように仕上がる。フライという調理法が素材の良さを引き出す最上の手段のひとつであることを、多くのシェフが改めて発見している。手作りのタルタルソースに自家製ピクルスを合わせて提供するレストランも珍しくない。

SNS映えを生む「揚げ物」の美学

揚げ物がSNSで強い訴求力を持つのは、視覚と聴覚の両方に訴える力があるからだ。黄金色に輝く衣、立ちのぼる湯気、油がはじく音——これらはカメラを通じても「食べたい」という気持ちを呼び起こす。特に動画プラットフォームでは、食材が油に触れた瞬間の音が再生数を引き上げると言われている。

盛り付けも変わった。白い皿の中央に一本だけ立てたチュロスに粉糖をふりかける瞬間を撮る。木の板に並べたアジフライの隣に鮮やかなタルタルをクローズアップで収める。透明な袋に入れた揚げスナックを街歩きしながら食べる様子を記録する。料理の見せ方が、食体験の重要な一部として設計されるようになっている。

衣の種類と食感を知ることが、フライを楽しむ第一歩

フライの個性は、衣の素材と厚さがほぼ決める。生パン粉を使うカツ系は、粒が粗いぶんサクッとした軽い食感が得られる。細かく挽いた乾燥パン粉を使うと、衣がしっかりして重量感のある仕上がりになる。薄力粉と卵を合わせた液状の衣(バッター衣)は、素材を均一に包みながら薄く仕上がり、素材本来の風味を前面に出したいときに向いている。

天ぷらの衣は、薄力粉を氷水で溶くことでグルテンの発生を抑え、さっくりとした軽さを生み出す。チュロスはシュー生地に近い配合で、水・油・薄力粉を加熱して糊化させた生地を絞り出して揚げる。外がカリッとしているのに中がもちっとしているのは、この生地の糊化による保水性のおかげだ。衣の科学を少し知るだけで、フライを食べるときの解像度がぐっと上がる。

家庭でフライをおいしく揚げるための三つのポイント

家庭で揚げ物に取り組む人が増えている。コツのひとつ目は、油の温度管理だ。アジフライや鶏の唐揚げは170〜180度前後が目安で、食材を入れすぎると温度が一気に下がり、衣が油を吸ってべたつく原因になる。一度に揚げる量は鍋の底面積の半分以下にとどめるのが基本だ。

ふたつ目は、揚げたあとの油の切り方。バットに平置きするよりも、立てかけた状態で余分な油を落とすと、衣がカリッとした状態をより長くキープできる。三つ目は、塩のタイミング。揚げたての熱いうちに粗塩をひと振りすると、表面に密着して風味がバランスよく立つ。仕上げに添える酸味——レモンや柑橘酢——も油っぽさを軽減し、最後の一口まで軽やかに食べ進めさせてくれる。

イタリアンの「フリット」から見る揚げ物文化の深み

揚げ物の文化は、イタリアにも深く根ざしている。「フリット(fritto)」と総称される揚げ料理は、前菜から主菜まで幅広く登場する。ズッキーニの花にリコッタとアンチョビを詰めて揚げる「フィオーレ・ディ・ズッカのフリット」、小魚・エビ・イカをひとまとめにして揚げる「フリット・ミスト・ディ・マーレ」など、素材の持ち味を薄い衣で包んで引き出す発想は、日本の天ぷらと通じるものがある。

イル・キャンティのキッチンでも、季節ごとに旬の素材を使ったフリットを大切にしてきた。揚げることで引き出される香ばしさ、口に入れた瞬間の食感のコントラスト——どの国の料理においても、揚げるという行為は人を喜ばせてきた普遍的な調理の魔法だ。チュロス専門店の行列も、アジフライの格上げも、その喜びを改めて発見しようとする食の好奇心のあらわれなのかもしれない。